大判例

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東京高等裁判所 平成4年(ネ)38号 判決

控訴人

株式会社タマルエステート

右代表者代表取締役

筥崎良允

控訴人

筥崎良允

右両名訴訟代理人弁護士

佐藤義行

後藤正幸

被控訴人

吉田邦弘

右訴訟代理人弁護士

字田川和也

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の控訴人株式会社タマルエステートに対する各株主総会の決議不存在及び各取締役会の決議無効の確認を求める訴え並びに控訴人筥崎良允に対する訴えをいずれも却下する。

三  被控訴人の控訴人株式会社タマルエステートに対する控訴人筥崎良允が取締役及び代表取締役でないことの確認を求める訴えに係る請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審ともに被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2(本案前の申立て)

本件訴えをいずれも却下する。

(本案の申立て)

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審ともに被控訴人の負担とする。

二被控訴人

本件各控訴をいずれも棄却する。

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一争いのない事実

原判決三枚目表一三行目末尾の次に行を改めて以下のとおり加える。

「6 福田博司は、平成四年一月二一日、控訴人株式会社タマルエステート(以下「控訴人会社」という。)及び控訴人筥崎良允(以下「控訴人筥崎」という。)ほか二名を債務者として東京地方裁判所に取締役職務執行停止・職務代行者選任等の仮処分を申し立てたところ(同裁判所平成四年(ヨ)第二〇〇二号事件として係属)、同裁判所は、同年七月一七日、控訴人筥崎及び福田和子の取締役兼代表取締役としての職務執行並びに奈良篤子の取締役としての職務執行を停止し、取締役兼代表取締役の職務代行者(以下「代表取締役職務代行者」という。)に弁護士久保利英明、取締役職務代行者に弁護士金丸和弘及び同藤原総一郎をそれぞれ選任した。

7 右代表取締役職務代行者は、同年九月八日、取締役三名及び監査役一名の選任を会議の目的たる事項とする株主総会を同月二五日午後一時控訴人会社において開催する旨の通知を株主である被控訴人及び福田博司に発し、前記日時・場所で株主総会を開催したところ、取締役に控訴人筥崎、奈良繁及び奈良篤子、監査役に田山善一郎がそれぞれ選任され、同控訴人ほか三名もその就任を承諾した。

8 同年一〇月一二日、右の取締役三名及び監査役一名が全員出席して取締役会が開催され、控訴人筥崎が代表取締役に選任され、同控訴人もその就任を承諾した。

9 なお、右7項及び8項の各役員の就任については、同月二三日、その旨の登記を経由した。」

二争点

1  原判決三枚目裏一行目末尾の次に行を改めて以下のとおり加える。

「被控訴人が不存在の確認を求める各株主総会決議(以下「本件係争株主総会決議」という。)及び無効の確認を求める各取締役会決議(以下「本件係争取締役会決議」という。)がされた後、前記代表取締役職務代行者の招集により株主総会が開催されて取締役三名及び監査役一名が選任され(その承諾を得て就任)、その後これらの者が出席して開催された取締役会において代表取締役が選任され(その承諾を得て就任)、それらの各就任登記を経由したことから、本件各確認請求について訴えの利益を肯定することができるか否かが訴訟要件に関する争点となる。

また、本案の要件に関しても、右の新役員の就任が本件各請求の当否についてどのような影響を及ぼすかが問題となる。」

2  同三枚目裏二行目から同四行目の全文を次のとおり改める。

「更に、本件係争株主総会決議の存在及び同取締役会決議の有効性については、特に株主総会・取締役会の招集・開催手続に瑕疵があったか否かが争点になるところ、控訴人らは、この点につき次のとおり主張する。」

第三争点に対する判断

一本件において被控訴人は、(一)控訴人会社に対し、昭和六三年六月六日開催、同年八月二日開催、同年一二月二六日開催、平成二年八月一〇日開催及び同月二二日開催の各株主総会における取締役・監査役選任決議が存在しないこと、並びに、昭和六三年六月六日開催、同年一二月二六日開催及び平成二年八月一〇日開催の各取締役会における代表取締役選任決議(昭和六三年六月六日開催の取締役会については控訴人を代表取締役から解任する旨の決議を含む。)が無効であることの確認を求め(以下、これらの各請求を「決議不存在・無効確認請求」と総称する。)、(二)控訴人両名に対し、控訴人筥崎が控訴人会社の取締役及び代表取締役の地位にないことの確認を求めている(以下、この請求を「取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求」という。)。

二ところで、確認の訴えは、いうまでもなく当事者間に存する法律上の紛争を確認の判決により解決することが有効適切である場合、すなわち即時確定の利益がある場合にのみ認められるものであるところ、過去の法律関係に属する事柄に関しては、当事者間の紛争を解決する手段としては通常その後成立するに至った現在の法律関係を対象として有権的判断を示すことで足りると考えられるので、特に既往の法律関係についてまで明らかにしなければならない特段の事情がない限り、即時確定の利益を欠くものというべきである。

これを本件についてみるに、本件係争株主総会決議及び同取締役会決議は、いずれも過去の法律関係に属する事柄であるから、その不存在・無効の確認を求めるためには前記の即時確定の利益を肯認するに足りる特段の事情が存しなければならない。ところが、先に当事者間に争いのない事実として摘示したとおり、裁判所が選任した代表取締役職務代行者の招集により平成四年九月二五日開催された株主総会において、新たに取締役三名(控訴人筥崎ほか二名)及び監査役一名が選任されてその地位に就いた上、右新役員が出席して開催された同年一〇月一二日の取締役会において、控訴人筥崎が代表取締役に選任されてその地位に就き、同月二三日には各役員就任の登記を了しているのである。このような場合、一般的には就任登記を経由した新役員が会社の業務執行等それぞれの任務に当たることとなるので、従前の選任決議の瑕疵を問題にする実益はなくなると考えられる。仮に当事者間において本件係争株主総会決議が存在するか否か、また、本件係争取締役会決議が有効であるか否かということに起因して生じた法律上の紛争が存するとしても、その決議の存否・有効性は、民事訴訟の一般原則に基づき当該紛争解決のための前提問題としていつでもいかなる方法によっても主張し得るのであるから、本件においてこの点を明らかにしなければならない必要性はない。そして、その他、特に既往の法律関係についてまで確認しなければならない特段の事情が存すると認めることはできない。

そうすると、被控訴人の控訴人会社に対する決議不存在・無効確認請求は、確認の利益を欠く不適法な訴えであり、却下を免れないものというべきである。

三次に、取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求について検討するに、これは本件係争株主総会決議の不存在・本件係争取締役会決議の無効を前提問題として控訴人筥崎が控訴人会社の取締役及び代表取締役の地位にないことの確認を求めるものであるから、その性質としては現在の法律関係に関する確認の訴えであるということができる。

しかしながら、右のような法人の機関に関する地位確認の訴えについては、当該法人のみが被告適格を有し、それ以外の者には被告適格はないものといわなければならない。何故なら、当該法人を相手方としてその機関に関する地位確認の訴えを提起してその請求を認容する確定判決を得た場合には、対世的効力を有する判決により法人の機関に関する地位を巡る紛争を根本的に解決することができるのに対し、当該法人以外の者を相手方にして提起した場合には、この訴訟に勝訴しても、判決の効力が法人に及ばない結果、関係当事者間の紛争を根本的に解決する手段としては有効適切なものということができないので、即時確定の利益を欠くものと解されるからである。そして、法人自体とそれ以外の者とが共同被告として地位確認の訴えを提起された場合においても、これを必要的共同訴訟と解すべき理由がない以上、法人以外の者との関係においては右の理が同様に当てはまるものと考えられる。

本件においては、控訴人会社と控訴人筥崎とがともに被告として取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求訴訟を提起されているところ、右に説示したところによれば、控訴人会社に対する関係においては訴訟要件を欠くものではないが、控訴人筥崎に対する関係においては同控訴人が被告適格を欠くため訴訟要件を具備せず、不適法な訴えとして却下を免れないものというべきである。

四進んで、控訴人会社に対する関係での取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求の当否について検討する。

ところで、いったん株主総会における取締役選任決議が不存在と評価され、これに伴い取締役会における代表取締役選任決議も無効とされる場合には、原則として連鎖的にその後開催された株主総会における取締役選任決議も不存在、取締役会における代表取締役選任決議も無効とされ、その結果、右の瑕疵が継続する限り、以後の株主総会・取締役会において取締役・代表取締役を選任することができないことにならざるを得ない。しかしながら、その後において先の株主総会・取締役会における決議の瑕疵を承継せず、適法に株主総会・取締役会が開催されたような場合には、有効に取締役・代表取締役を選任することができることはいうまでもない(株主総会の招集手続の瑕疵が承継されず、適法にこれを開催できる例としては、全員出席総会の場合、裁判所が仮処分により選任した代表取締役職務代行者が招集した場合などを挙げることができる。)。

本件においては、裁判所により選任された代表取締役職務代行者により招集された株主総会において新たに取締役三名(控訴人筥崎ほか二名)及び監査役一名が選任されてこれに就任した上、取締役会において控訴人筥崎が代表取締役に選任されてこれに就任し、右各役員就任の登記を経由したことは前判示のとおりであるところ、被控訴人は右各株主総会及び取締役会の招集・開催手続については争っていないから、本件係争株主総会決議及び同取締役会決議に瑕疵が存したとしても、右瑕疵は承継されず、有効に控訴人筥崎が控訴人会社の取締役及び代表取締役に就任し、その地位にあることは明らかである。

したがって、被控訴人の控訴人会社に対する関係での取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第四結論

よって、被控訴人の控訴人会社に対する決議不存在・無効確認請求及び控訴人筥崎良允に対する関係での取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求はいずれも不適法な訴えであるので却下すべきであり、また、控訴人会社に対する関係での取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求は理由がないので棄却すべきであるから、以上と異なる原判決は相当でないのでこれを取り消した上、職権をもって右不適法な訴えをいずれも却下し、更に控訴人会社に対する取締役・代表取締役の地位に関する消極的確認請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 新村正人 裁判官 齋藤隆)

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